RUBY EYE
中庭で、月野の部屋の窓が閉じたのを確認すると、十夜は美鶴に視線を移した。
「いい香りね」
「はい」
赤い薔薇の香りを楽しむ美鶴は、どこか寂しげに見える。
バラ園は、美鶴の亡き夫が愛したもの。
手入れの行き届いたこのバラ園は、季節関係なく、薔薇が咲き誇る。
「月野は、気づいたかしら?」
「いえ、何も」
「そう。では、私から話した方が早そうね」
薔薇から顔を離し、美鶴は微笑を浮かべる。
「本当に、良いのですか? 彼女に―――」
「あの子が、私を唯一救ってくれる存在なのよ」
美鶴の見上げた先は、窓の閉じた月野の部屋。
「あの子が、私の運命を変えてくれるわ」
むせ返る薔薇の香り。
庭の中央に置かれた噴水の水が、月明かりに照らされてキラキラと光る。
「あの子は多くの者の運命を変えるわ。十夜、あなたの運命も、きっと」