RUBY EYE

鮮やかな薔薇の花も、今は美しいと思えない。

ヴァンパイアには至上の美味なはずの血も、今は欲しくない。


美鶴の世界の中心は、亡き夫だった。

その中心が失われてしまえば、世界は瞬く間に崩れ落ちていく。


「自分の子供がいても、そうなの? お父さんは―――」

「慧は音無を捨てたのよ。あの子は、迷いもせず人間の女を選んだ」


あの日を境に、夫は体調を崩した。

本当なら今頃、月野の父―――慧が、音無の当主となっていたのかもしれないのに。


「あの時は殺してしまいたい程だったけれど、今は感謝しているわ」

「感謝?」


美鶴は振り返り、月野を見つめた。


「お前が、ここにいるから」

「・・・・・・」


結局、この女性の目に、自分は孫として映っていない。

自分を殺して救ってくれる、唯一の存在としてしか、見えていないんだ。


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