エレーナ再びそれぞれの想い
シュウを失いたくない千鶴は、一見、自分の事しか主張していないように思えるが、
シュウが好きという気持ちは、清らかな心に匹敵するほど強く純粋な物だった。
エレーナはもしかしたら、誰かを大切に想う気持ちは、清らかな心を持った人と同じよ
うな大きな力になるのではと、思った。
そして、さやかもまた、同じ気持ちを感じ取っていた。
 
 では、なぜエレガンス幹部達は、エレーナ達、新しい天使に想いの力というものを教
えてこなかったのか?
それは、人の想いほど不安定なものはないと考えていたからだ。
幹部達も、想いが持つ大きな力をもちろん知ってはいた。
だが、人間の感情によって作られた想いは大変不安定になりやすく、それに頼る事は懐
疑的だった。
姿を消して、エレーナ達の様子を見ていたマリアンヌとシオミ。
「想いの持つ力を教えなくていいんですか?」
「エレーナと、さやかは、これで、想いの持つ力に気づいたはずよ。私が教えるまでも
なかったわ。でも、問題はこれからね」
マリアンヌは、もうしばらく様子を見る事にした。
 
 寮の屋上、エレーナは部屋に戻れないでいた。
このままじゃ、シュウに顔を合わせられない。
どういうふうに接していいのか分からず、落ち込むばかり。
今、シュウに会えば、エレーナは冷静さを失い、泣き崩れるであろう。
 一方、中沼もシュウに本当の事を言うべきか悩んでいた。
シュウは既に死んでいる。幽霊にまでなった者を今さら苦しめる事を言う必要あるのか

シュウには、あまりにもショックが大き過ぎる。このまま、黙っていた方がよいのでは
ないか……。
 エレーナが、落ち込んでいると、マリアンヌがシオミと共に、屋上にやって来た。
「こんな所で落ち込んでいる場合じゃないでしょ?」
マリアンヌがエレーナに話し掛けた。
「シュウを助けに行かなくていいの? 貴方がちょっと頑張れば、医療事故は無かった
事になるのよ」
「どうしてそれを!」
エレーナは驚いて聞き返した。
「貴方達に人間の想いという物を教えようとここに来た。
偶然、貴方が出掛けるのを見かけたのでつい、追い掛けた。そして、たどり着いたのが
警察署だった」
「全部、聴いていたのですか」
マリアンヌはうなずいた。
「人の想いは清らかな心に匹敵する大きいな力を持つ事がある。
特に、誰かを想う気持ちはなおさら。
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