エレーナ再びそれぞれの想い
誰にも迷惑掛けたくないからと、学校を出て行こうとするのは、まなみの本心からじゃないのは明らか。
それを分かっていたシュウは、まなみをこう引き止めた。
「ここを出て行っても、行く所が無いだろうし、それに、このままじゃ市川さんが幸せになれないような気がします。
僕、市川さんが幽霊であっても、幸せになるべきだと思います。
みんな、市川さんがこの学校で幸せになれる方法を、一緒に考えませんか?」
シュウの呼びかけに、快く応じるクラスメイト達。
「私達でよければ、何でも相談して」
クラスメイト達も必死でまなみを引き止めた。
 まなみは、静かに屋上へ降りた。
そして、シュウやクラスメイト達と手を取り合った。
みんなの強い説得に、まなみは学校から出て行く事を思いとどまったのだ。
「市川さんが、戻って来てくれて良かった」
中には、抱き合って泣く人達さえいる。
まなみも、たくさん涙を流した。
でもその涙は最高の笑顔へと変わった。
 
シュウをそばで、ずっと見守っていたエレーナ。
「幽霊だって幸せになるべき……」
そのセリフに聞き覚えがあった。 
「天使だって幸せになるべきだ」
この時、エレーナは、ハッとした。
かつて、前契約者、宮原慎一がエレーナに同じ事を言っていた。
エレーナの中で、よみがえる慎一の記憶。
「貴方は、やっぱり宮原慎一さんの生まれ変わり。清らかな心は、ちっとも変っていない」
エレーナの瞳は涙で潤んだ。
 
 一方、まなみを追いだせなかったなつみは、悔しくてたまらない。
「チッ、あと少しだったのに!」
なつみは舌打ちした。
「なつみさん、落ち着いて下さい」
真紀は、荒れるなつみを必死でなだめた。
反白川連盟で硬かったはずのクラスの結束力。
それがいつの間にか、白川シュウの側にそっくりと回り、シュウの味方が驚くほど多数になっていた事を、なつみはこの時初めて思い知らされた。

 その日の夜、学校の寮でシュウとエレーナがふたりきりになった。
「幽霊だって幸せになるべきだ」 
エレーナは、シュウが慎一と同じ気持ちを持っていたことが嬉しくてたまらなかった。
しかし、肝心なシュウの心は自分ではなく、黒川に向いているという辛い現実。
その事が、エレーナを苦しめた。
シュウに、前世の宮原慎一の記憶はない。
エレーナは、シュウに昔の事を思い出して欲しいと思った。
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