エレーナ再びそれぞれの想い
 やがて文化祭前日になった。
試行錯誤を重ね、ようやく形はできたものの、窯で焼く時間が無い。
既に日も暮れかけている。
とりあえず、余熱をし、焼成を行うが、このままじゃ明日の昼までかかる。

さらに徐冷を行えば、夕方か夜になり、どうしても文化祭当日まで間に合わない。
プリシラがシュウの様子を見に来た。
プリシラの姿に気づいたシュウは、
「何とかここまでたどり着けました。でも、焼く時間がない。
明日までには間に合わない」
と、こぼす。
「でしたら、作品の完成を明日の文化祭に間に合わせたいと願えばいいじゃないですか」
プリシラは、天使。契約者のどのような願いでも叶えられる。
「その手がありましたか!」
シュウはプリシラに願った。
「作品の完成が明日の文化祭に間に合いますように」
暖かく優しい光が窯を上から照らした。
「これで、焼成の速度が上がりました。あとは、焼き具合は私に任せて下さい。
窯の中の時間の進行が速くなりましたので、ご主人様じゃ、焼き時間と窯の温度の感覚がつかめず、多分焼き過ぎちゃうと思います」
「あっ、ありがとう、プリシラさん」
夜が過ぎ、やがて明方近くなった。プリシラは、
「そろそろです」
と言うと、窯のふたをゆっくりと開いた。
焼き物が載せられた棚が積まれた台車が、静かにプリシラの手によって引き出された。
出来あがりを確認するシュウ。
「出来ました。これで今日の文化祭に間に合います」
その時、初めてシュウの顔に笑顔が戻った。
「よかったですね。間に合って」
「はい、ありがとうございます」
 
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