想 sougetu 月
 美鈴おばさんを送り出して、さっそく出かける支度をすることにした。
 映画の上演時間は斎が調べてくれている。

 ノックがして斎の声が聞こえる。

「月子、入っていいか?」
「ん」

 返事をするとすぐにドアが開かれた。

「ん?」
「もう着ていく服は決めた? もし決めてないなら服装は俺が決めていい?」

 それを聞いて、ワードローブを開けて服を出そうとしていた手が止まった。
 そんな私にかわまず、私の横に歩いて来る。

 私はぶつからないように横にずれると、斎はワードロープの中にある私の服を物色し始めてしまった。

 結局、斎の選んだ服は、大きな花柄のワンピースとエンジ色のもこもこカーディガン。
 それと白のコート。

 耳には去年誕生日に斎からもらった天使のイヤリング。
 首には一昨年に斎からもらったパールのプチネックレス。

 メガネだけはいつものだったけど、斎は私の髪をゆるく結んで可愛いピンで留め、何から何までコーディネートしてしまった。

「……」
「なんだよ?」

 戸惑ったまま斎を見つめていた私に気づいて、斎の表情が険しくなる。

 そんな斎はGパンにダークグリーンのハイネックセーター。
 セーターは昨年、私が誕生日にプレゼントしたものだ。

「ううん、何でもない!」
「? まあいい。プレゼント忘れるなよ?」
「ん、ちゃんとカバンに入れた」
「よし!」

 今朝渡そうとしたプレゼントは斎の要望により、なぜか外出先で渡すことになってしまったので私のカバンの中に納まっている。

 斎へのプレゼントは薄茶の皮手袋。
 コンパクトで軽い。

 カバンの中に入っていても外からじゃわからなかったのだろう。
 私の返事を聞いて、斎は満足そうに頷く。
 
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