想 sougetu 月
 10月。
 2日は斎の誕生日。

 朝は少し早く起きて、家族みんなで斎の誕生日を祝う。
 なぜ朝なのかと言うと、夜は自分の友達と一緒に祝いたいだろうから、というおじさんとおばさんの配慮から。

 さすがに朝からバースデイケーキは出てこないけど、普段よりずっと豪華な朝食がテーブルに並ぶ。

「わぁ~」

 テーブルの上には所狭しと斎の好物ばかりが並んでいる。
 朝食なのでこんなにたくさんあっても食べられないが、今日、私が大学がないのでこれは私の昼ごはんになる予定だ。

 テレビを見ながらゆっくり朝食を摂っていると、ふとあることに気づく。

「ね、斎、もう行かないと遅刻しちゃうよ?」
「あら、そうね。もう大学に行く時間じゃないの?」

 横で食事を摂っていた斎が食べ終わって、だいぶ経っている。
 普段ならとっくに家を出ている時間なのに、私達の言葉を聞いても時計をちらりと見るだけで椅子から立ち上がろうとはしない。

「斎?」
「今日は自主休講」
「ふえ?」

 めったなことじゃ大学を休んだりしない斎が自主休講?
 いったいどうしちゃったのだろう。

 心配になってきた私を斎が見た。

「月子、この間、見たいって言ってた映画があるだろ?」
「ん」
「後で行こう」
「行くって映画?」
「ああ」

 私が見たいって言っていたのは恋愛ファンタジーもの。
 斎の好みからは外れているはずだ。

「恋愛物だよ?」
「別にいい」
「いいの? わぁ! 楽しみ」

 映画を1人では見る気になれないので、斎が一緒に行ってくれるならすごく嬉しい。

 斎の誕生日を一緒に出かけられて、しかも2人きりで出かけるなんて久しぶり。
 ちょっとデートみたいで嬉しい。

 きっとこれもいい思い出になるだろう。
 
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