想 sougetu 月
 部屋のドアをノックする音と自分の名前を呼んでいる声が聞こえる……。
 見慣れたぬいぐるみが視界に入って、そこでやっと自分があのまま寝ていた事に気づく。

「月子!」
「は、はい!」

 少し心配そうな声に慌てて返事をする。

「開けるよ?」
「ん……」

 ドアに鍵はかかっていないが、声の主は私の了承なしにドアを開けようとはしない。
 もちろん、私が部屋にいない時は中に入ったことすらないはず。
 プライバシーを尊重する真面目な性格なのだ。

 ドアがゆっくりと開かれ、声の主の姿が現れる。

 すれ違った時、その容姿をもう一度確認したくて振り返ってしまうほどの美青年。

 サラサラでつややかな光沢を放つの少し長めの黒い髪。
 長いまつげに縁取られた吸い込まれてしまうような錯覚を起こしてしまう黒い瞳。
 アウトドア派のくせして、透き通るような白い肌。

 けして筋肉質ではないものの、無駄のない引き締まった体と長身。

 文句のつけようがない顔のパーツは整った容姿を際立たせている。
 100人が100人、彼を見たら容姿を褒めるだろう。

 でも彼を現すなら、容姿だけでなくその頭の中身もだ。

 高校の時は主席を勤め、卒業するまでの3年間ずっと学年1位の座を守った。
 大学もたぶん、主席で合格したはず。

 しかも性格も明るく、社交的。
 誰も彼もが彼に好感を持つ。

 声は優しい声は癒し声と言われいるのに、厳しい声を出すと静かで低い声に変化する。

 どこをとっても完璧。

 そんな彼の名前は「青柳 斎(イツキ)」。
 私の想い人。
 
「メシが出来た。……って、寝てたのか?」

 しょぼしょぼする目をこすっていたら、斎の目が細められた。
 少し機嫌が斜めになったようだ。

 机の上でうたた寝してしまったことに気づいて怒っているんだろう。
 斎に体調を崩すからちゃんとベッドで寝るように何度も言われていたのにこんなところで寝ていたからだろう。
 言うことを聞かずに失敗を繰り返す私に斎はいつも機嫌を悪くする。

「とりあえずメシ。冷めるから早く降りて食え」
「ん……」

 そう言われ、椅子から立ち上がると、斎がドアを支えたまま待っていた。

 斎は日本的な意味で言えば、かなりのフェミニストだ。
 女性には誰にでも親切にする。

「ありがと」

 お礼を言って階段を先に下りた。
 
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