想 sougetu 月
「ああっ!」

 目の前にある好物を見て、短い悲鳴を上げる私に斎は満足そうな表情を浮かべた。
 テーブルの上には魚介類が惜しげもなくふんだんに乗っているパエリア。

「今日はオヤジもおふくろもいないからな」
「うれしい……」

 冷蔵庫から取り出したサラダをテーブルに置く斎は優しい笑みを浮かべている。
 機嫌は直ったようだ。

「おば様、また接待?」
「ああ」
「最近多いね」
「あの人は目の保養になるから人気があるんだろ」

 自分の母親に対してずいぶんないいようだが、斎の家族はとても仲が良い。
 仲が良すぎるゆえのいじわるな言葉。

 斎の父親、幸矢おじさんは広告会社を経営している。
 営業は順調で、人手不足から美鈴おばさんが狩り出されしまった。

 だから2人がいないと、こうして斎と2人っきりになってしまう。

 普通なら女の子である私が家事を一手に引き受けるものなのだろうけど、それは斎の反対で家事は折半ってことになった。
 その中で、料理は斎の担当だ。

 斎いわく、いつになったら食べられるかわからないし、不器用な私が料理しては食材を無駄にするだけだからとか。
 その言葉に言い返せる言葉がないのが悔しい。

 完璧な王子様は料理すらお手のものだ。
 不器用な私はもっぱらそのオコボレにあずかっている。

 私はスプーンを手に取って、暖かな湯気を出しているパエリアを一口口に入れた。

「うまいか?」
「ん……」

 斎の質問に頷いてみせる。
 
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