想 sougetu 月
 刺激を送る手を弱々しい力で掴むと、斎の動きが止まり、苦しいキスからも解放される。

 斎はかがむと、私の左側に顔を寄せ耳たぶを噛む。

「ひっ!」

 ぞくぞくとしたものが体の下から伝わって小さく悲鳴がもれる。
 くすぐったさとは違う変な感覚。
 斎の息が耳の中をくすぐる。

「どうして止めるの?」

 ささやく声。
 言葉を話す時にもれる息が耳にかかり、ぞくぞくする感覚が止まらなくて首をすくめてしまう。

 そんなところでしゃべらないでほしい。
 そう思った次の瞬間、暖かく濡れたものが耳の中に入り込んできた。

「ひあん!」

 悲鳴が出て、体が勝手に痙攣する。
 むずがゆいような辛いような感覚に耐えられず耳を手で隠した。

「月子、俺のこと好きでしょ」

 突然、信じられない言葉を聞いて、私は斎の顔を見つめた。
 楽しそうで意地悪な表情を浮かべる斎。

「な、何を言ってるの」

 10年間必死で隠してきた気持ちを、あっけなく言い当てられてひどく動揺してしまう。
 そんな私の様子に斎は嬉しそうに微笑む。

「やっぱり否定しない」
「え?」

 混乱しているからなのだろうか、斎の言葉の意味が理解できない。

「俺のこと好きじゃなかったら、月子はそこですぐに否定するか家族として好きとか言うだろ?」
「……」
「それに、好きじゃない男に組み敷かれたら、月子、怖くて泣くでしょ」

 まるで私に確認させるように、私の目の下を斎の指が滑っていく。
 そこには涙などない。

 恐怖感はある。
 でもそれは罪を犯そうとする恐怖。
 初めて知る感覚への恐れ。

 けして嫌悪感からくる恐怖ではない。
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