想 sougetu 月
 自分の気持ちばかり押し付けていることはかわっている。
 でも、許されない関係なのに、それを悪びれることなく隠さずに誰かに言うなんてことしていいはずがない。

 私達は自分達の幸せをとった。
 それによってどんなことが起きて、誰を苦しめるかわからないのに……。

 10年間も想い続けてきた気持ちは、どんなに押さえつけようとしても容易く溢れてしまう。
 斎から手を差し出され、私はその手をとらずにはいられなくなってしまった。

 斎が欲しいのだ。
 他の誰だって、斎ほど想うことは出来ない。
 たった一人しか想えないってことが私にだって信じられなかった。
 自分の心なのにままならない。

 ただ好きで、好きで、どうしようもなくて、斎だけを想うしか出来ないのだ。

 両想いになれたことが、私にとって人生で一番の幸せだってはっきり言える。
 だからこそ、自分で戒めなくてはいけない。

 今の幸せは誰かを悲しませ、不幸にする幸せなのだと……。

「人に隠して、こそこそ付き合う意味はなんなんだ?」
「あ……。い……斎……。だめ……なの。お、お願い……。怒らないで」
「言葉もだめ……。でも体は繋げていい……」
「だ、だって……」

 俯いたまま、斎は顔をあげようとせずに怒っている。
 どう伝えていいかわからない私の言葉は、斎に伝わらない。
 
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