君がいるから
「……あきな」
聴きなれた耳障りのいい優しい声音が微かに届き、呆然とする中でゆっくりとその主へと移す。心配気に表情を崩したアディルさんの姿が映し出される。次第に私の拳に力が徐々に加わっていき、拳が震えだす。
「数日前と、先程口にしたな」
「そうだ」
「数日前。あきな、お前があの時言っていたことが関係しているのか?」
ジンの投げ掛けに自身の手元へと視線が下り行く先は、左手の指に通されたシルバーリングに埋め込まれた赤い石。あの日とは――ジンの剣に触れた時の事なのか。
「我々も戸惑い、時間をかけ結論に至った。あきなよ、そなたが持つ力で我々を――否、この世界に住む全ての民を救う為、協力をしてもらえぬだろうか」
(い……みわかん、ない)
「虫のいいことを口にしている――だが、シュヴァルツの邪悪で強大な力に太刀打ち出来るのは、そなたの持つ力とジンの持つヴァインだけなのだ」
「……そんな……私には」
「その2つが合わされば闇の力を封じ込め、この世界に平和が訪れ――」
ガタッ!!
お爺さんの声に重なって、床に倒れ落ちた椅子のけたたましい音。その瞬間に、自分が拳を握り締めたまま、荒々しく立ち上がっていた事に気づく。
「あきな」
再び耳に届くあの人の声。顔を上げることも出来ず、握り締める手がわなわなと震えた。この現状をさっきから整理しようにも、全てがごちゃまぜ。
「あきな。そなたには――」
「私には、そんな力ありません!!」
次に掛けられる言葉を遮って、顔を俯かせたままはっきりと声にする。
「私はただの高校生です! そんな力持ってないし知らない!! この世界を救うだなんて、そんなこと出来っこないっ」
息継ぎがうまく出来なくて言い終えた後、息を一気に吸い込もうとしてしまう。静寂な空間に自身の息遣いが煩い。
「そなたが混乱するのも無理はない。だが、お主には龍の血が受け継がれていることは現実」
「私は父さんと母さんの子供として生まれたんです!! そんな"龍の血"なんて知りません!!」
「時間がないのだ。刻一刻と滅びの時は近づいている」
「知りません! 私はこの世界の人間じゃないっ」
「……あきなよ。今一度我の話に耳を貸してくれぬか」
ギルスのお爺さんの言葉は、今の私には――そうして、頭を小さく左右に振る。
「……そうか。今日の所は部屋に戻って休むがよい」
視界が次第にぼやけてくるのを感じ、熱を持った瞼を力いっぱい閉じた。