君がいるから
コンコン
(あれ?)
もう一度、扉を叩いてみるものの、扉の向こうから返答が一切ない。
(誰もいないの、かな?)
そして、もう一度だけ、中からの返答を待ってみるも、やっぱり――ない。
「誰もいない……みたいだなぁ」
歌声も私を呼んだ声も気のせいには出来なかったけれど、部屋の前でこのままこうしていても仕方ない。もしも、部屋の主が戻ってきた所で、顔を合わせたこともない人物だったら、部屋の前にいられたら良い思いはしないかもしれない。踏ん切りをつけ、後を引き返そうと振り返った時――。
――こっち――
頭に直接語りかけてくるような、そんな感覚に顔を扉へと戻す。
――ねぇ、こっちだよ。おいでよ――
「誰? そこにいるの?」
そう問いかけてみるも、先程と同じで返答はない。返事はなくとも、呼ばれている感覚が抜けなくて、失礼だと思いつつも取っ手に触れ扉を押し開いてしまった。
ギーッギギッ
扉をゆっくりと開き、顔だけをまず入れて中を覗き見る。
「うわぁ……すごい」
中は外と同様に薄暗く、目を細め見えたのは本の山。窓外は明るいというのにカーテンは閉め切られ、シャンデリアが備え付けられてるもそれは輝くこともなく、ただカーテンの数箇所の隙間から陽の光が差し込んでいるだけ。段々と扉を開いていき足を踏み入れ、最後には扉を閉めた。そうして、部屋の置くへと足を進ませたものの。
「きゃっ!!」
目の前の本ばかりに気を取られていたら、落ちている本の山に気づかずに足先を突き当ててよろけてしまう。
「うわっ本踏んじゃっ……た」
「痛っ。角で掌ひっかいちゃった」
1人、そこらへんに転がっていたり、棚の上に積み上げられた本に悪戦苦闘しながら声を上げていたら。
「勝手に人の部屋に入って何してんの、あんた」
「ひぃーっ」
突如、背後から思いもしない声が飛んでき、驚きのあまり奇声を発したのち、恐る恐る振り返った。
「うるさいなぁ……ってか、あんた誰」
薄暗くて顔はよく見えないけれど、ふいに声の主の手元に視線が落ちた先には、分厚い本だろうものを手にしているのに気づく。
「なに? 喋れないわけ?」
背後に立っていた人物が動き出し、それを目を凝らしながら目で追いかける。陽の光が漏れる場所へと辿り着き、シャーッと音が立って一気に陽を遮っていたものが無くなった。