君がいるから


 コンコン




(あれ?)

 もう一度、扉を叩いてみるものの、扉の向こうから返答が一切ない。

(誰もいないの、かな?)

 そして、もう一度だけ、中からの返答を待ってみるも、やっぱり――ない。

「誰もいない……みたいだなぁ」

 歌声も私を呼んだ声も気のせいには出来なかったけれど、部屋の前でこのままこうしていても仕方ない。もしも、部屋の主が戻ってきた所で、顔を合わせたこともない人物だったら、部屋の前にいられたら良い思いはしないかもしれない。踏ん切りをつけ、後を引き返そうと振り返った時――。

 ――こっち――

 頭に直接語りかけてくるような、そんな感覚に顔を扉へと戻す。

 ――ねぇ、こっちだよ。おいでよ――

「誰? そこにいるの?」

 そう問いかけてみるも、先程と同じで返答はない。返事はなくとも、呼ばれている感覚が抜けなくて、失礼だと思いつつも取っ手に触れ扉を押し開いてしまった。

 ギーッギギッ

 扉をゆっくりと開き、顔だけをまず入れて中を覗き見る。

「うわぁ……すごい」

 中は外と同様に薄暗く、目を細め見えたのは本の山。窓外は明るいというのにカーテンは閉め切られ、シャンデリアが備え付けられてるもそれは輝くこともなく、ただカーテンの数箇所の隙間から陽の光が差し込んでいるだけ。段々と扉を開いていき足を踏み入れ、最後には扉を閉めた。そうして、部屋の置くへと足を進ませたものの。

「きゃっ!!」

 目の前の本ばかりに気を取られていたら、落ちている本の山に気づかずに足先を突き当ててよろけてしまう。

「うわっ本踏んじゃっ……た」

「痛っ。角で掌ひっかいちゃった」

 1人、そこらへんに転がっていたり、棚の上に積み上げられた本に悪戦苦闘しながら声を上げていたら。

「勝手に人の部屋に入って何してんの、あんた」

「ひぃーっ」

 突如、背後から思いもしない声が飛んでき、驚きのあまり奇声を発したのち、恐る恐る振り返った。

「うるさいなぁ……ってか、あんた誰」

 薄暗くて顔はよく見えないけれど、ふいに声の主の手元に視線が落ちた先には、分厚い本だろうものを手にしているのに気づく。

「なに? 喋れないわけ?」

 背後に立っていた人物が動き出し、それを目を凝らしながら目で追いかける。陽の光が漏れる場所へと辿り着き、シャーッと音が立って一気に陽を遮っていたものが無くなった。


< 190 / 442 >

この作品をシェア

pagetop