君がいるから
* * *
ザッシュッ
肉身を切り裂く生々しい音が幾度となく飛び交う。降り始めた当初よりも、次第に激しさを増して来た大粒の雫。家屋を燃やす炎は次第に弱まり、辺りに焼け焦げた匂いと土の匂いが混じり合い鼻につく。地に溜まった水が赤に染まりゆく。
長い時――剣を交え合う者達は、傷を負い体力は徐々に失われ、そして互いに力尽きていった。
「団長! 斬っても斬っても、こいつら……キリがありません!!」
甲冑を身に纏った騎士が、瓦礫の山にいる白灰の髪の持ち主――騎士団長アッシュへと息を切らし訴える。
「うろたえるなっ。国を守るのが我等、騎士の役目だ」
だが、アッシュは冷静に且つ怒りを含んだ声で騎士へと言い放った。そんなアッシュの声音に、騎士は柄を握る手に力を加え、再び抗争が繰り広げられている中へと飛び込んで行く。アッシュは部下の背も見ずに、自分もまた剣を構え目前の敵へと突っ込む。
次々と剣を扱う姿はしなやかで華麗にさえ思える。標的の者達へと斬りつけて行く顔色、表情は変わることなく。
ザッザッ
自分へと向かって来ていた者達が地へと全て倒れ込むと同時に――背後から今までの者達とは違う気配に、アッシュは体を後方へ向けた。
「アッシュ」
その刹那、彼の耳に届いた声に身が震えた。
「ま、さか……」
青い瞳は大きく見開かれ、言葉を失うアッシュ。先ほどまで感情が、面に出ることが無かったアッシュの表情が変わっていく。アッシュの青い瞳に映るのは――。
「……そんなはずは。あなたは」
黒い外衣を身に纏った長身の人物は、驚愕のあまり言葉に出来ずにいるアッシュをただ見つめている。剣を握るアッシュの手は、普段の彼なら決して無い――カタカタと小刻みに震え剣が微かに音を出し始めた。
「お前はいつも涼しい顔をしていて、今のような表情は何とも珍しい」
「……なぜ……」
「冷静なお前が言葉に詰まるとは……ふっ、それもそうなるか。久方ぶりだな、アッシュ」
「何故、あなたが」
長身の男は、まるでアッシュを見知っているかのような口ぶり。そしてアッシュもまた。
「驚くな――と言う方が、無理な話だったな」
男は何処か懐かしむように微笑み、言葉にした。