君がいるから


   * * *


 この3日幾度となく通った馴染みの扉を少し乱暴に開き、早足で部屋を駆け抜ける。隣室に飛び込み、いつもとは違う。大きな窓に掛けられたカーテンは大きく開かれ光が注ぎ込んでいた。ベッドヘッドに体を預けて、分厚い辞書のような本に目を向けているレイがいる。

「レイー!!」

 読書中ということに遠慮することもなく、そのままレイの元へと駆け寄る。すると、本に向けられていた碧い瞳は細めてこちらを見た。

「……うるさいな。あんたさ、この状況が見えないの?」

 レイの迷惑そうな表情にお構いなく、駆け寄った勢いでレイの首に腕を回し自分の方へと勢いよく抱き寄せた。

「ぅぶっ!!」

「朝ごはん食べたんだって!? すごい!!」

「っは、離せ!! なっ何なんだよ、一体っ」

 胸元でバタバタと暴れ離れようとするレイ。でも私は、一切力を緩めず、レイの肩に顔を埋めた。

「よかったよ……」

「った……たかがスープだろ。何でそこまで喜べるんだか」

「――本当に嬉しい」

 無意識のうちにレイの背中にあてた掌が擦っていた。

「……また、弟を見ているのか」

(自分でも分からない。どうして、こんなにも瞼が熱くなっているのかも)

 レイが言うように、きっとコウキと重ねている部分は大きいのかもしれない。

「あんたさ――」

 そっと瞼を閉じた時、布地を通して温もりを背中に感じる。温もりは私と同じように擦る掌、ちょっとぎこちなくてとても優しい。

「……わけ分からない女」

 か細く呟いた言葉と一緒に、レイの口角が少し上がっていたことを私は知る由もない。




   * * *




「随分と嬉しそうな表情だね? 何かいいことでもあったの?」

 レイの部屋からシェヌお爺さんの所へ向かう途中、ふと背後から声を掛けられ振り返った先に。

「ウィリカ!」

「おはよう、あきな」

 眩しいくらいの笑みを浮かべたウィリカ。彼の手には昨日と同じで片方に木材、もう片方には鉄で出来た箱。

「まだまだ、補修終わらなさそう?」

「まぁ、あと今の調子なら3日もすれば、だいたいは終了すると思うよ」

「お疲れ様」

 そう労う言葉を掛け、ウィリカは小さく笑う。変なことでも言ったのかと思い、首を傾げる。

「今日は昨日よりも顔色も良いね。表情も」

「ぐっすり眠れたおかげかな」

「そっか。なら、よかった」

「ウィリカ達みんなもあまり無理しないようにしてね。怪我しないように気をつけて」

 持っている木材や鉄の箱に目をやりながら口にすると、ウィリカはまた笑う。


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