君がいるから


「どうし、たの?」

「変だなって思って」

「……どこらへんが?」

 端整な顔が唐突に目の前に迫り、金色の瞳が間近にあり、驚きのあまり目を瞬く。羞恥心を抱くのも忘れて。白の髪が揺れ落ちる――。

「だって、そうでしょ? 僕たち、あきなを誘拐した連中なんだ」

 にっこりと微笑むウィリカの表情に、目を見開く。

「そんな連中をあきなが心配したりする事ないと思うし。それに約束もある事覚えてるよね?」

 たしかに、理由も分からずギル達に船に乗せられ、少し怖い目にもあったりした。でも、彼等とこうして顔を合わせても今は――。

「約束はちゃんと覚えてる」

「なら、よかった」

「それにね、ウィリカ達がいてくれて助かってるし、寝る間も惜しんで働いてくれてて、1人怪我しそうになったって聞いてたから、少し心配になるし。それから……約束のことはもう少しだけ待ってほしいの。この事はギルにも自分から伝える」

 スカートの両端を握り、ウィリカの金色の瞳から逸らさず。

「ウィリカ達は一時的でも契約を交わしたって聞いた。だから、終わったらギルの言う通りにします」

「契約期間が終わったら、あきなとずっといられるのか。楽しみだな、ね?」

「……う、ん」

 そっと視線を下に向けた――その時。

「あきな?」

 耳馴染みのある――少し久しく感じる声。背後から香ってくる、甘い香り。何度も何度もその香りに胸が高鳴った。
 ゆっくり――ゆっくり、背後へ目を向ける。そして、視線が行き着いた先には、頭に思い描いた人。

「ア、ディル……さん……」

 顔を合わせるのは3日ぶり。紅い瞳、長くて光を吸収して輝く金の髪。

(私は今どんな顔してる?)

 どんな風にアディルさんの瞳に映ってるんだろうか。そう思えば思う程に、胸の奥がじんわりと熱くなっていく。アディルさんは厳しい顔つきになり、靴音を鳴らす。私達の間にある距離は、アディルさんによって縮められていく。私の傍に辿り着いたかと思うと、アディルさんは私を半ば隠すように立つ。

「今の話を詳しく聞かせてもらおうか」

「何のことでしょう?」

「惚けるな。約束とはどういうことだ!」

 突然、ウィリカの襟元を攫み上げるアディルさん。慌ててアディルさんの腕を掴み頭を左右に振る。

「……アディルさん」

 アディルさんはちらり――私を見遣り、腕を掴む手の甲は大きな掌に包み込まれた。幾度となく、助けてくれた温かくて優しい掌は今――とても冷たい。


< 345 / 442 >

この作品をシェア

pagetop