君がいるから
レイの真剣な眼差しに、手にしていたフォークを置いて背筋を伸ばす。
「聞きたいことがある」
「はい……どんなことでしょう」
「あの日の事」
「あの日?」
(いつの日のことだろう)
目を丸くし首を傾けて思考を巡らせていると、レイは前髪をくしゃりと触れ、額に掌を置く。
「あんたと初めて会った日」
「あぁ、あの時。最近のことなのに、すごく前に思えるね」
「俺に聞いたよな? 歌が聞こえてきた――そう言ったよな」
レイにそう言われて、視線を上方に向け考える。蘇ってくる光景、あの日のこと――。
「そう。たしか、レイの部屋から離れてる場所だったのに、頭に直接聞こえてるような――そんな感じだったの。今でも覚えてるよ、あの綺麗な声」
頭の中であの時の声とメロディーが流れていき、自然と笑みが浮かぶ。
「それ、俺だから」
「……何が?」
唐突な応えに頭の中に疑問符が現れる。意味を理解出来ないでいたら、レイは私から視線を外す。
「あの時の歌、俺が歌ってたんだ」
「……レイが?」
「そうだって、言ってんだろ」
「えっでも、え? 聞いたときは知らないような素振り見せてたのに」
(どういうこと? レイがあのメロディーを歌ってた人?)
「ちょっそれどういうこと!?」
「それは俺も知りたいね」
「へ?」
「俺は声に出してなんてない。大声歌ってたって、この部屋から離れた場所にいたあんたに聞こえるなんてありえない」
(それもそうだよ。ちょっと待った、理解するのに時間が掛かる……)
「あんたには、特殊能力があるわけ」
「ないないっ!! 絶対ないっ!!」
「俺を助けに来た理由も、声が聞こえたからだったよな?」
助けて――と、声がしたことも思い返す。あの時は、とても弱々しくて助けを求めてて。
「私には、人の心を読むことも、ましてや離れている人の声を聞くことなんて出来ないよ。特殊能力なんてあるわけない……そんなの」
「なら何故。俺の声は聞こえたの」
「そう言われても、私の方が聞き……たい」
とても不思議な体験。自分でも分からないから、謎を解くことは到底無理な話。