君がいるから


「ふ~ん……まぁ、いいや」

「いいや……って」

「ただの偶然ってことで」

「偶然……こんな簡単に解決させてもいいのかな」

(深く追求したとしても、実際どうしてかなんて私達に分かるわけがない……か)

 グラスを持ち、一点を見つめながらお水を口に含む。その時、ふと思い出す。ほっとこうと思ったけど、やっぱり気になってしまう。

「レイ、あのさ」

「…………」

 私の問いに反応を見せないレイを見据える。ただ、そうしていると、眉間に皺を寄せ始めていく。

「んだよっ。用件とっとと言ったら」

「だったら、最初から返事して下さい」

 盛大にため息をついてみせ、立ち上がってレイの隣にソファーのスプリングを弾ませて座る。

「……ったく、なんなんだよ」

「今度はレイに聞きたい」

「は?」

「……何をそんなに怒ってるの」

「は? 何が?」

「レイを怒らせるようなことした? 私がここに居ることが不愉快に感じる?」

 レイは私の顔を見ようとはしないけど、私はまっすぐにレイを瞳に映す。私達の間に沈黙が長く訪れ、レイが答えるまで、ただじっと待つ。

「苛々するんだよ」

「それは私に対してだよね?」

「…………」

「うん、分かった」

 少しでもレイが心を開いてくれている気がしてたのは、私の勘違い。ここまでしてきたことは、レイにとってはやっぱりただの迷惑でしかなかったんだ。そう思うと、少し胸が苦しくなり、レイから視線を外す。

「それじゃっ、食事の途中だけど私もう行くね。外に騎士さん待たせちゃってるし。ちゃんと食べてね、せっかく体調よくなってきたんだから」

「…………」

「これも余計なお世話……だね」

 レイは一切私を見ようとはしない。見てはいないだろうけど、笑みを浮かべて傍から離れる――つもりだった。左腕に強い圧迫感。右肩に重みを感じ、胸の前にはきつくしめられる感覚。背中には布越しに温もりが伝わってくる。そっと振り返ると、白銀色が視界に入ってきた。

「具合、悪い? それならシェヌお爺さん呼んで――」

「何処行くんだよ」

 か細い声で言うレイの言葉に、目を丸くする。

「何処って……私がいることで、レイが気分が悪くなるんだったら、居ないほうがいいでしょ?」

「そんなこと一言も言ってない」

 右腕と胸の圧迫感が急激に増し、顔を歪み微かに苦痛の声が漏れる。


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