君がいるから


 つもりだった――重なろうとした手は、遮られてしまう。

「……レイ?」

 眉間に皺を深く刻み、アディルさんを睨み付けるレイ。その表情に私もアディルさんも驚く。

「レイ様? どうして、こちらに」

「いちゃ悪い?」

「いえ、そのような事は……ただ、お珍しいですね」

 アディルさんが笑みを浮かべて言うものの、レイは依然として表情を崩さない。アディルさんにまで、こんな表情をするなんて。今日は相当腹の虫が悪いらしい。

「レイ様自ら望んだこと。さっさと話を始めるぞ」

 アッシュさんが、私達の横を靴音を鳴らしながら通り過ぎようとした際に告げる。

「ご自身で。それはいい事だが、レイ様には――」

「無関係とでも言いたいのか、アディル」

 アディルさんがアッシュさんに向けた言葉はレイによて、またも遮られる。

「いえ。ですが、レイ様は体調が万全ではないかと思いまして」

「それだけが理由か?」

「何がおっしゃりたいんでしょう」

「別に」

 喧嘩ごしというか挑発的というか、言葉に少し棘があるように思えるレイの口調。以前から皆に対してこんな態度なのか。私に対して最初から冷たかったし、皆が驚いているのは部屋の外に出たということのよう。

「てめーら、人のこと無視して話こんでんじゃねーよ」

「そうだよ。話があるなら早く始めてくれないかなぁ。こっちだって暇じゃないんだよねぇ」

 先程から怒りモードのギル、気づけばその傍らにウィリカが腕を組みにっこり微笑んでいた。

「仕方ない。レイ様とあきなはあちらでジン様と共にお座りください」

 一つ息を軽く吐き出した後、アディルさんが掌で示す方向を見やる。ジンが瞼を閉じ腕と足を組み座っていた。

「はい。ありがとうございます」

「…………」

 アディルさんに一礼をして示され場所へ向かう間際、アディルさんに腕を掴まれふと甘い香りが近づく。そして、耳元に息遣いが聞こえ――。

「今すぐにでも、さっきの続きしたい所だけど」

「――っ!」

「後でゆっくり2人で――時間が空いたら迎えに行く」

 不意打ち。耳にかかる吐息と囁かれた甘ったるい声色が、体を一気に熱くさせて胸の鼓動が激しくなる。私の頭の上を数回、アディルさんは掌を弾ませ、先にジンの元へと戻っていく。

(どうしよう。このまま私、倒れちゃうよ……)

 腰が抜けそうな感覚、恥ずかしさと胸の鼓動に惑わされる。

「おいっ金髪の男女!! 俺様のことを無視してんじゃねー!!」

 背後で叫び散らすギルの言葉なんて耳に入ってなんてこなかった。


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