君がいるから
「ってめー!! 女っ!!」
「ギル……女じゃなくて、あきなって呼びなよ」
「お嬢ちゃん……おりゃだけ、なぁんで呼ばないんだぁ?」
ギルは私の姿を見るなり、目を吊り上げながら勢いよく立ち上がった拍子に椅子を派手に倒す。ウィリカは、そんなギルへ冷静に言い放ち、はたまた、お……じさんはテーブルに頬杖を付き、残念そうな表情を浮かべている。この3人の温度差に目をぱちくりしてしまう私。
「どうして、3人ともここに?」
「あぁ!? んなことより、てめーなぁ!! 勝手にてめーが船を降りたり、めんどーなこと押し付けたりすっから、余計めんどくせーことになってんだよ!」
怒鳴り散らしながら、ずかずか私に歩み寄って来るギルの威圧感に一歩ずつ足を後方へ。気づくと、あっという間にギルが目の前に。眉間に皺を作って不機嫌さを露わにしている顔を、私の顔に近づけてきた。
「俺様が怪我しても見舞いにこねーとはどーいう了見だ! あぁ!?」
「……ご、ごめんなさい。色々とバタバタしてて」
「んな言い訳通じると思ったら大間違いだぞ!」
こんなにも間近で、耳が痛くなるくらいの声量に体が萎縮する。それでも、ギルの腹の虫はおさまらないようで――。
「だいたい、てめーが――」
「そこまでにしてもらおうか」
ギルが再び、私に怒鳴り散らそうとした時。私達の間に体ごと割って入ってきたのは――。
「これ以上、あきなに近寄らないでもらおうか」
「アディル、さん」
守ってくれるようにして、背後に私を隠すアディルさんの背中で視界がいっぱいになる。
「あぁ!? んだと、この野郎」
「これ以上、、そんな汚い言葉をあきなの目の前で口にしないで頂こう」
「んだと。てめー……いけすかねー野郎だな」
「その言葉そのまま返させて頂く」
「上等だ。俺様に殺られてーみてーだな」
「…………」
アディルさんの背後から2人を伺い見る。間に火花が散って見えそうな、そんな雰囲気。
「アディル。その女を連れ、とっとと座れ」
「承知しました、長」
冷静で低い声音のアッシュさんの一言で、アディルさんはギルから視線を外し、振り返って私を見下ろす優しいまなざし。
「あきな、王の元へ行こうか」
「……はい」
未だにアディルさんに睨みを利かせているギルを無視して、アディルさんは私に手を差し伸べる。少し恥ずかしさもあったけれど、その掌に自分の手を重ねた。