君がいるから


   * * *


 チュンチュンッ チチュン


(ん、もう朝……?)

「もっと、寝て、たい……」

「そろそろ起きないと――何するか分からないよ?」

(……え?)

 重たく閉じていた瞼が、勢いよく開く。眠気なんて一気に消え去る。視線の先に端正な顔立ちと紅の瞳の持ち主が映し出された。

「おはよう。あきな」

「わわわわわっ!! なななっ!!」

 言葉にならない声を出し、驚きのあまり飛び起き上がった途端、勢いあまって後方へ誘われ――。

「おっと」

 寸前の所、背中に回されたアディルさんの腕が抱きとめてくれ、落ちずに済んだ――のはいいけれど。視界には紅の瞳がいっぱいに映り、息遣いまで聞こえる。2人の鼻先が触れそうな距離。

(か、顔が……ち、近すぎる)

「朝から元気いっぱいだね、あきな」

「ああっありがとう、ごごございます!」

(と、とにかく離れよう! 朝から心臓に悪すぎる)

 ずっと煩く鳴る心音。朝からこんなに心臓がはちきれそうになることなんて、寝坊して遅刻しそうになって全速力で走ってる時とはまた違う。
 腕を引かれ元の位置に戻され、それでもなお近すぎる2人の距離を遠ざけようと、アディルさんの胸に両手をあて軽く伸ばす。

「……この手は?」

「いえ……あの、ちちちっちょっと近いので」

 途端、軽く喉を鳴らすアディルさん。私の頭の上で数回手を弾ませ、距離をとってくれた。すんなりと離れてくれたことに嬉しい反面、ほんのちょっと寂しいと矛盾した思いが生まれる。

「今日は気持ちのいい青空が広がっているよ」

 大きな窓のカーテンを引く音が響き、陽の光が燦々とそそぐ。まだ光に慣れてない目は眩しさで細まる。

「あきなと1日ゆっくり過ごしたい所だけど。今日も色々と立て込んでるのが本当に残念だな」

「もしかして、もう部屋を出ますか? それだったら私がここでのんびりしてるわけにもいかないですね」

 慌ててソファーから立ち上がり、制服や髪を軽く整える。すると、背後からふわりと甘い香りに包まれた。

「そんなに慌てなくても大丈夫だよ」

 後ろから耳元に囁かれ、一気に体温が上昇する。

「じっ自分の部屋に、もっ戻ります。アディルさん、これからお仕事ですしね」

「うん。あと2、3日したら落ち着くと思うから。そしたら、ゆっくり2人で過ごす時間を作るよ」

(何だろう)

「ただ、今はもう少しだけこのまま」

(何だろう、この甘い空間……。もう心臓が限界……)


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