君がいるから
気恥ずかしさに視線を下げたら、小さなため息の後、柔らかな温かさが頬、目元、額に触れた。小さな音を立てて。
「そういう可愛い顔して……本当に余裕がなくなる。今日はこのくらいにしとかないとなぁ」
「こっこのくらいって……何をっ」
「あっまた赤くなった。何を想像したの? あきな」
私の反応を楽しんでいるアディルさんに頬を微かに膨らませ、眉を寄せて見る。
「かっからかわないで下さい」
「それは心外だなぁ。一度だってあきなをからかったことないよ?」
「……それ、本気で言ってますか」
「う~ん。一度もは嘘だったか。でも……」
言葉を途中で切った途端、背中に回された腕の強さが増す。そうして、後頭部に掌が添えられる。
「愛おしいとは幾度と無く思った。これは嘘偽りない俺の本心」
甘い香り。互いがより近づくと、トクントクンって微かに聞こえる脈の音。アディルさんの腕の中の安心感。
「……アディルさんだけ、ずるいです」
「ずるいって、どうして?」
「だって……私はこの状況にドキドキしてて、心臓が壊れそうなくらいなのに。アディルさん1人だけ余裕があって……正直ずるいって思ってます」
目の前の胸に顔を埋めて放った言葉はくぐもる。それでも、アディルさんには伝わったようで、頭上で笑う声がした。
「本当にそう思う?」
「はい」
「さっきだって言ったよね、余裕がない自分が情けないって。余裕が無いんだ本当に。今のこの状況は特に」
(アディルさんの声音に余裕がないだなんて信じられないよ……私だけがいつもジタバタしてる感じしかないもの)
「あきな?」
ふいに掛けられた声に、そっと視線を上げる。
「これから先、あきなにとってつらいことも悲しいこともあるかもしれない。危険な目にもあわせてしまうことだって」
「…………」
「でも、覚えておいてほしい。俺はいつでもあきなを守る――傍にいるから」
あきなも俺の傍にいてほしい――アディルさんの腕の中で瞼が熱くなって、声にする変わりに何度も頷く。
2人が横になるには小さなソファーの上。アディルさんの腕の力は緩められることはなく、私も同じように背中に腕を回して縋る様に布地を掴む。
その夜、鼓動のリズムと程よい温かさに次第に瞼が重く閉じていく。何より、この時は今まで感じたことのない幸福感に満たされてて心地良い。
ただただ――互いの温もりを包み込んで。そのうちに夢の中へと誘われた。