君がいるから
「いかにも何かありましたように顔赤らめて……あっ! さては……あたしのアディルと!?」
「なっあなたが考えてるようなことは絶対にしてない!!」
「考えてる事って何だ!? はっきりと言えー!」
私に食ってかかるシェリーは肩を震わせ、目元を吊り上げている。肩を下げお尻を上げて体を少し後方へ、地を勢いよく蹴り上げ飛び掛って来る。私の元へ突っ込んでくる、寸での所でシェリーをかわす。
「うわっ! いきなり飛び掛ってくるなんて……怖いよ!」
「どうして……あんたばっかり」
「本当に何もない! 昨日はただアディルさんと話をしてただけで」
「話だ!? それだったら、わざわざアディルの部屋じゃなくても出来るだろ!!」
「そりゃそうだけど……私はただ呼ばれて行っただけで」
「シェリー!! あんたいい加減にしなさい!」
メイドさん数人がシェリーの背後で、腰に手を当てて立っている。シェリーはそれらを無視して、なおも私へとギリギリと歯を食いしばり睨み付け。
「ほらっシェリー! あんたには他の仕事があるでしょ? 油売ってないで行くわよ!」
メイドさんの1人がシェリーの腕を掴み上げ連れて行こうとするも、力いっぱいに振りほどく。シェリーは食いしばっていた歯を次第に緩めていき、つり上がっていた目元も下がっていく。顔を徐々に俯かせ、拳を震わせてた。でも、それは怒りというのとは違って見え――。
(シェリー……?)
「取らないで……お願いだから、シェリーからアディルを……」
シェリーの様子が先ほどとは違う。近づこうとした途端に、シェリーの顔が上がる。その表情は――赤いまん丸の大きな瞳いっぱいに涙が浮かんでいた。
「シェリー、一体どうし――」
「何も、もう望まないから。お願い……アディルを取らないでぇ……」
最後は細く言い放ち、きゅっと閉じられた瞳から大粒の涙が溢れ、頬だけでなく足下の土にも滲みを作る程。周りのメイドさん達もこんなシェリーの姿を目にするのが初めてなのか、驚きの表情を浮かべてその場で立ち尽くしている。
「毎日……遊ぼうって言ってるのに。最近は全然遊んでくれない。あんたが来てから……あんたのことばっかり」
シェリーは拳で乱暴に目元を擦り、一度私を睨みつけて踵を返し走り去ってしまう。声を掛けることも出来ぬまま、ただ去って行くシェリーの後姿を見つめるだけだった。