君がいるから
――絶句。
「これ……バスルームですか……?」
「はい、左様でございます」
私の視界に飛び込んできた光景は、今まで見たこと無いくらいの広さ。ダイニングテーブルがある部屋の隣に、この場所はあった。自分の部屋より少し大きめな扉。その扉を開け足を踏み入れると、軽く10畳以上はあるだろうバスルームが。それに猫足のバスタブ、猫足部分は金で光り、バスタブも真っ白で丹念に磨かれているのが分かる程に輝いている。壁には小さなガラスの窓がいくつも並んでいて、あの月が幻想的に姿を見せている。そして大きな鏡も周りの淵もシルバーで統一され、シャワーも金具の部分が金。見上げると、蝋燭が立てられるような形もあるシャンデリアがバスルーム全体を輝かせていた。
(お風呂にシャンデリア……っというか、全体的に高級すぎて入れないよ!)
「あきな様、どうかなさいました?」
「いえ……。何でもないです」
『そうですか』っと微笑むジョアンさんが、バスルームを出て行く後を付いて出た。
ジョアンさんは布巾を取り出しテーブルを丹念に拭き上げ、カートの握りに触れ方向転換する際、乗せられたお皿がカチャカチャと音をたてる。
「それではあきな様。私はこれで失礼致します」
「もう行っちゃうんですか?」
「まだ仕事が残っておりまして。何かございましたら、外の者に言いつけ下さい」
一礼してカートを押すジョアンさんは扉の前まで辿り着くと、ジョアンさんは振り返り微笑む。
「お着替えは、バスルームのキャビネットの上へご用意いたしましたので、どうぞ遠慮なさらずにお使い下さい」
「ありがとうございます。色々して貰う立場じゃないのに――」
「あきな様は大切なお客様だとアディル様よりお聞きしております。それにこれが私の仕事ですから、どうぞお気になさらずに」
優しい言葉と柔らかな微笑みをくれるジョアンさん。それがとても嬉しく感じる。
「それでは、失礼致します」
ジョアンさんは扉を開き外へ出て、ゆっくりと閉めこの部屋を後にした――。