君がいるから
「んー! おいしいーっ」
カルボナーラによく似たクリーミーな味が口いっぱいに広がり、あまりの美味しさに感激の声を上げる。また一口また一口と次々と口に運んでいく手が止まらない。スープもパンもサラダもお肉も魚も全てが美味しすぎて、知らずの内に一気に頬張ってあっという間に1人で平らげてしまった。
「苦しい……食べすぎた……」
「よほど、お腹が空いてらっしゃったんですね」
「あ……はははっ」
あまりの自分のがっつきさ加減に、笑いで誤魔化す。女性はにこやかに空いたお皿を重ねてカートに乗せ、今度は可愛らしい丸みのあるティーポットとカップをテーブルに出し準備する。女性の慣れた手つきを見つめながら、ふと思いつき姿勢を正した。
「あっあのっ」
「はい。何でございましょうか?」
声を掛けると、一度手を休めて私に視線を向ける女性に思い切って口を開く。
「お名前を教えて頂いてもいいですか?」
「私のですか? 私なんかの名前など覚えなくてもいいんですよ」
「嫌じゃなければ、ぜひ教えて下さい」
私の問いに小さく息を吐いて柔らかな表情で視線を手元へ戻し、休めていた手を再び動かしポットの注ぎ口から湯気を立ち上っている。
「ジョアンです。私の名前はジョアン=クロスビーです。呼び名はあきな様が呼びたいように」
「ジョアン……さん。私は山梨あきなです! よろしくお願いします」
ジョアンさんは注ぎ終わったカップが私の前へ置かれる。
「こちらこそ、よろしくお願い致します。お熱いのでお気をつけてお飲み下さい」
お互いに笑顔を見せ合い、昨日あった出来事が嘘のように私達の周りには穏やかな空気が流れていた。カップからは甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
「これって、ミファって飲み物ですよね」
「あら、ご存知でしたか。もしかして、アディル様とお飲みになられましたか?」
「はい。甘くて優しい味ですよね。アディルさんが甘党って、驚きましたけど」
「あのお方は一日中これをお飲みになってますよ。これしかお飲み物は口にしません」
(これしか飲まないの?! アディルさん!)
「少し落ち着かれましたら、湯浴みでもなされてはいかがですか?」
「あっお風呂ですよね? でも許可がないと外に出られないので」
「ご心配なさらずとも、この部屋の奥に備え付けの浴室がございます」
「……え!?」