君がいるから
「んだよっこっちをじろじろと見んな!」
そう言い放った後、私の全身を下から上へまた上から下へ――繰り返し見て、口元に手を当てながら片眉を上げ鼻で笑う女の子。彼女の少し馬鹿にしたような笑みに、少し眉に皺を寄せ視線を送る。
「アディルー、この人睨んでくるよー? こわーい」
途端に、甘える声でアディルさんの胸に頬を擦り付け、丸い紅い瞳を潤ませながら訴える。
「シェリー。彼女はあきな、これからよろしく頼むよ。彼女とも仲良くなってね」
シェリーと呼ばれた女の子の頭を、アディルさんはピンク色の髪を優しく撫でる。アディルさんの手が気持ちいいのか、目を瞑り腰に更に強くしがみ付く女の子。それはまるで主人に甘える小動物のよう――。
ピンクのショートヘアー、丸い大きな紅い瞳、肌が私より白くて小柄。私より随分低い身長……小学校の低学年くらいかなっと考える。メイド服を着用しているけれど、他のメイドさんとは違うピンクのワンピース、小柄な彼女には大きいのか白いエプロンのストラップが今にも肩からずり落ちてしまいそう。目の前の女の子が、未だにアディルさんの胸に精一杯背伸びをして頬ずりをしている姿にある動物が思い浮かぶ。
「昔、お世話した兎みたい」
私がぽそり――口にした言葉に、女の子の耳が再び反応しこっちへ向けられた怒りを含んだ表情に驚く。
「今なんて言った?」
「へ……? あぁ、昔小学校で飼ってた兎に似てるなって思って……」
「あたしを……飼われてた動物と一緒にすんなー!!」
突然、威嚇の声を上げてアディルさんから離れ腰を深く落とす――勢いよく飛び上がり、私目掛けて突っ込んでくる。
「きゃーっ!」
咄嗟に腕を顔の前で交差させ、衝撃に身構える。
「邪魔すんな! このバカー!!」
いつまでも衝撃がない事にそっと腕をどかすと、目の前で男性に首根っこを掴まれながらも腕や足をバタつかせて叫んでいる女の子の姿があった。
「離せ! 離せ、このっ!! この女、あたしのこと飼われた動物と一緒にしやがったんだ!! 八つ裂きにしてやるー」
「あーはいはい。物騒なこと言ってる暇あったら、お前働けよ」
そう男性は涼しげな表情で、そのまま人込みをかき分け彼女を連れて行ってしまう。食堂から出ていくまで彼女は『離せー!! 許さない!』『アディルー!』っと叫び続けていた。