君がいるから


 一瞬にして過ぎ去った嵐に、私はついていけずに呆然と立ち尽くす。

「ごめんね。普段は大人しくて良い子なんだけど」

(おっ大人しい?)

 嵐が去った方を見つめ、首を傾げる私。

「俺が話す女性に対して、いつもあんな感じになるんだ……。どうしてだと思う?」

「…………」

 う~んっと天井へ仰ぎながら、顎に指を添えるアディルさんの姿にがくっと肩が下がった。

(あの子の態度見てたら、初対面の私でも分かりますよ? というか……ここにいる全員がきっと気づいていることだと思います、アディルさん)

 アディルさんって、自分のことには疎いんだろうかと、苦笑を漏らした。

「ん? あきな、どうしたの?」

「いえっ何でもないです……」

「そう? じゃあ、食事にしよう」

「でも、まだ食事は用意されて――」

 アディルさんが私の背に手を添え振り返らせると、さっきまで何も乗せられていなかったテーブルには綺麗なお皿に盛られた料理が既に置かれ並べられていた。

(いつの間に……あの騒ぎの中、どうやって持ってきたんだろう)

 それから気づくと周りにいた人達は、既に自分の位置へと戻り談笑し食事を再開していた。
『どうぞ』っと声を掛けられ、椅子を再び引いてくれた席へと腰を下ろす。先ほどまでの緊張感が抜け、力が入っていた肩はすぅーっと軽くなり、目の前に並べられた料理に目がいく。

「おいしそう」

 目の前に広がる色とりどりの野菜や果物、湯気が立ち上るスープ。

「さっ冷めないうちに頂こうか」

「はい」

 アディルさんは隣に腰を下ろして、2人一緒に掌を顔の前で合わせ微笑み合い『いただきます』と口にした。









「ごちそうさまでした」

 掌をもう一度合わせ直し、天井を仰ぎ軽く息を吐いた。朝からゆっくりごはんをお腹いっぱい食べるなんて久しぶり。いつも洗濯や2人分のお弁当と朝ごはん作ったりしていたら、あっという間に時間が過ぎちゃっていたから――。まだ、ほんの数日しかこの世界にいないのにとても懐かしい日々。

「あきな様」

 自分を名を呼ばれ、ぽーっと見つめていた天井から慌ててその方向へ視線を移したら、優しく微笑むジョアンさんの姿があった。目が合うと同時に朝の挨拶を交わす。

「お茶のおかわり、いかがですか?」

「ありがとうございます。いただきます」

 そう返事をすると、ワゴンからティーポットを手に持ち、ジョアンさんは私の傍に寄った。


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