夜明け前


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ちーちゃんに連れられて、さっき飛び出したリビングに戻ろうと歩きだした時。


「…しゅー?」


リビングの方から、さくの声と足跡が聞こえてきた。


「さく…」


どうすればいいかと、横に立つちーちゃんに視線を向ける。


「―行っておいで」


目を細めて微笑むちーちゃんに、トンっと優しく背中を押される。


そうだ、怖がっていては先へ進めない。


「…さくっ」


「…しゅー、…さっきは、きつくあたってごめん」


違うよ、謝るのは私。


「ううん、…私こそ、ごめんなさい。…さくは心配してくれたのに」


「…ううん、大丈夫。…もう一度、ちゃんと話そう?」


「うん」


少し空いていた距離が縮まって、さくが差し出した手を握って後ろを振り向けば、


飄々とした笑顔を浮かべたちーちゃんが、こちらに向かって来ていた。


「うんうん、仲が良いのが1番だよね〜」


なんて、さっきはなんだったんだろう。


本当に、面白い人。


…優しくて、素敵な人。


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