夜明け前


「…そういうところ、姉様にそっくりだよ」


母様に、そっくり?


―そんなはず、ない。


母様は綺麗で、強くて、凛とした、自信に満ち溢れていた女性。


私とは大違いだ。


「…姉様も同じような思いを、してたみたいだから」


「…同じ、思い?」


「そう、だけど何も言わなずに、ずっと堪えてたみたいだったよ。…その時どうやって対処したのかは、わからないけど」


同じ思いをしたという母。


私が思っているように、逃げ出してしまいたいと、誰かに助けて欲しいと、思っただろうか。


「…弟の俺としてはね、姉様に頼って欲しかった」


「……頼って、欲しかった?」


「あぁ、…頼りなかったのは分かってるけど、それでも力になりたかったし、味方でいることくらい出来たと思う。…そばにいる、信じてる。そう言いたかったなって思うよ」


まぁ、あの時の俺ガキだったしなぁ。


そう言って笑う奏音さんは、懐かしそうに、悲しそうに笑っていた。


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