夜明け前
「…ねぇ、しゅー、なにかおかしいよね。どうしたの?」
「…え、別に、なんにもない」
「…うそ。なにかある。俺に言えないこと?」
「……」
「…言わないの?」
微笑みが怖いんだけど、兄様。
ふぅ、とため息を吐いたさくは、流石に私の扱い方を理解していて。
「…なに、俺に言えないようなことでもした?」
「…してない」
「じゃあなんなの。早く言いなさい。…いーちにーいさーんしー」
「…っあ、か、」
「ごー、っと…ん?か?」
「…彼女は、いいの」
「…は、へ?彼女…?誰の」
「誰のって、さくの」
「えー、…彼女なんていないんだけど」
「え」
「本当にいないよ。なんの噂か知らないけど」
「…相野さんは?」
「…え?あぁ。相野、ね」
あれ、夏の終わりとはいえまだ暑いのに、しかも外なのに、ちょっと寒い。