夜明け前


「…ねぇ、しゅー、なにかおかしいよね。どうしたの?」


「…え、別に、なんにもない」


「…うそ。なにかある。俺に言えないこと?」


「……」


「…言わないの?」


微笑みが怖いんだけど、兄様。


ふぅ、とため息を吐いたさくは、流石に私の扱い方を理解していて。


「…なに、俺に言えないようなことでもした?」


「…してない」


「じゃあなんなの。早く言いなさい。…いーちにーいさーんしー」


「…っあ、か、」


「ごー、っと…ん?か?」


「…彼女は、いいの」


「…は、へ?彼女…?誰の」


「誰のって、さくの」


「えー、…彼女なんていないんだけど」


「え」


「本当にいないよ。なんの噂か知らないけど」


「…相野さんは?」


「…え?あぁ。相野、ね」


あれ、夏の終わりとはいえまだ暑いのに、しかも外なのに、ちょっと寒い。


< 18 / 145 >

この作品をシェア

pagetop