夜明け前
若すぎる母。
一人で不安だっただろう、途方にくれたこともあっただろう。
どうして一人で産むと決めたのか。
家族の助けはなかったのか。
…父親は誰なのか。
母が話すことはなかった。
『どうしてお父さんがいないの?』
幼かった二人が抱いた疑問は当然と言えば当然で。
運動会も、参観日も、みんなは両親が揃うのに、私たちはいつも母一人だけ。
別に、嫌でも不満があったわけでもない。
だけどやっぱり羨ましくて。
なにも考えずに、気づけば母に聞いていた。
『…ごめん。…ごめんね』
そう言って苦しそうに笑う母を見て、子供心に聞いてはいけなかったと悟って。
『…別に、お父さんなんていらないよっ、ね!』
『うんっ、母様と朔がいるからいらない!』
そう言って、いつもの明るい笑顔を浮かべて欲しくて、必死になったのを覚えてる。
母が大好きで。
笑ってほしくて。
喜んでほしくて。
『さくちゃんとしゅーちゃんが大好き!』
その言葉が聞きたくて、過ごしていた幼い日々。