わたるんといっしょ


――何を。


“期待しているんだ”、とその背中に呼びかける前――渉の腕が掴まれた。


長い指先は女の手。


「いひヒひひイひひヒひひっ!」


狂ったように笑い出した怪異は、渉の腕を掴んだまま一歩下がる。


「っ……!」


「渉くんっ!」


ひきこさんの体が、“闇に呑まれる”。


夜以上に暗い穴がひきこさんごと、渉まで――


「ま、やだあぁっ!」


渉が連れていかれる。


バネのように駆け出してみたが、間に合わない。


振り返った渉の唇が動くが、聞き取れない。


なのに。

その顔は、聞こえなかった声を補うように――


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