騙されてあげる~鬼上司に秘密の恋心~
「麻菜、そろそろ行かないと遅刻するぞ」
ここに残っているのはわたしだけだと思っていたのに。
誰かの声がしたと思ったら。
やっぱり、仲森さんだった。
「仲森さん……も残ってたんですね」
「ほら、早く」
「あっ、はい……先行っててくれてよかったのに」
何故かわたしを待っていてくれた仲森さんに、ボソッと呟いた。
二人きりになるの、なるべく避けていたのに。
今回ばかりは、避けられそうにないかも。
ここにはわたしたちしかいないから。
「麻菜、方向音痴だろ。迷って遅刻するのが目に見えてる」
さっき言ったこと、聞こえてたみたい。
「準備できたみたいだな。じゃあ、行くか」
こうして仲森さんの隣を歩くことなんて、もうないと思っていたのに。
わたしは何をやっているんだろう。
足を引きずりながら歩く仲森さんの隣で、わたしは昔のことを思い出していた。