大地主と大魔女の娘
 
「返済の意思はあるのだな」


「はい」

 目線を合わせるように、片膝を折った地主様の目つきは鋭かった。


 私の発した言葉に嘘が無いかどうかを、見極めようとしておられるのかもしれない。


 深く濃い藍色の双眸に、私の夜闇色はどう映るのだろうかと正直とても怖かった。


 それでも精一杯、誠意を表すためにも見つめ返す。

 引き寄せた杖を両手で握り締めた。

「……。」

「……。」

 気まずい沈黙が続いた。


 不意に彼の手が伸び、私のあごを持ち上げる。


 思わず顔を背けようとしたが、許されなかった。


 彼の骨ばった親指が唇をぐいとなぞる様に動き、口元で止まる。


 左の下唇の少し、下。


 そこに大きいという訳ではないが黒子(ほくろ)がある。


 彼の親指が何度かそこを行き来した。


 汚れか何かと思われたのだろうか?


 そう思い当たったら恥ずかしくて仕方が無かった。


 もう放してほしくて、彼の手首にそっと手を重ねた。

「あの、」


「カサついている」


「はい」

 
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