大地主と大魔女の娘



 カルヴィナが恐るおそる扉を開けると、かすかに軋んだ音を立てた。

 そっと隙間から中を覗きこんでいる。

 いつまでも一歩を踏み出す様子のないカルヴィナの代わりに、扉を押し開けた。


 どこか懐かしい乾いた草の香りが漂ってくる。


 天井のそこかしこに、逆さに干された草花が目に入る。

 窓が開け放たれ、光が細く差込み細かくホコリが舞うのが見えた。

 新鮮だが、秋の気配を滲(にじ)ませた風が室内に干された草花を揺らしている。


 きっと大魔女とその娘ならば、薬草にするべく干している植物を状態良く保つために、多少冷えても換気を欠かさないだろう。


 それを知っている者の配慮を、そこはかとなく感じた。

 暖炉には消されたばかりであろう薪が、細い煙を上げている。
 明らかに人の気配が残っていた。
 だがそれは、カルヴィナが期待する人物のものではない。

 質素な机と二脚だけの椅子が中央に置かれ、その椅子の背に男物の上着と思しき物が掛けられていた。

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 落胆の隠せない様子のカルヴィナを椅子に座らせる。

「見覚えある物か?」


 カルヴィナは無言で首を横に振って見せる。

 上着はそこそこ質の良い物で、仕立てがしっかりしていた。

 きちんと裏地まで付いており、ただの農民の物では無さそうだと判断付ける。

 ワン! ワン! ワン!

 表で番をしていた犬が吠えた。


 上着の持ち主が戻ってきたらしい。


 犬に驚きながらも怯えた様子は無く、「こら! 吠えるな!」と明るく諌める声がした。


「誰だ――!? 勝手に……っ、おまえ! 帰ってきてたのか!? 髪は、髪はっ、どうした?」


 男は大きな音を立てて扉を蹴り開けると、大声で叫ぶ。


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