大地主と大魔女の娘


 カルヴィナの身体が跳ね上がった。明らかに怯えている。

 庇うように男の前に立つと、訝しげな視線で睨まれた。

 男は年若く、年の頃は二十歳を超えたばかりのように見える。

 溢れる若さ特有の勢いに乗せた眼差しは、不躾で遠慮が無い。

 灰色の髪が汗で額に張り付いている。

 それを腕で乱暴に拭うと、長い前髪に隠れていた琥珀色の眼光が明らかになる。

 まるで、森に住まう狼そのもののような男だと思った。

 俺の全身を眺め回してから睨みつけると「あんた、誰だ?」と低い声で訊いてきたが無視した。


 一歩も引かず、チッと舌打ちされる。

 薄手のシャツ一枚で袖をまくり上げ、小脇に薪を抱えていた。


 それを乱暴に足元に放り置くと、俺を押しのけようとした。


「エイメ、こいつは誰だ?」

「カルヴィナ、この男とは顔見知りか?」

 疑問の声は同時に被った。

 それから男は息を飲む。

「カルヴィナ、だと!? それがオマエの本当の名なのか?」

 何故か顔を歪めて焦る男に、一歩高みから見下ろしてやるような優越感を抱く。
 カルヴィナを責めるように問い詰めようとするが、それを許さない。

「大声を出すな。カルヴィナが怯える」


「ったく、何様だ! あんた!」


 男が腹立ち紛れにテーブルを拳で叩いた。

 ばん!と音を立ててテーブルが動く。

 カルヴィナが驚いて、俺の背に縋った。

 すかさずその手を引いて、抱きかかえてやる。


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