大地主と大魔女の娘
 呆気に取られている私に、美女は屈んで両手を取ってくれた。

 すべすべしている。

 私のささくれた指先が、この綺麗な手を傷めやしないかと冷や冷やした。

 不安が顔に出ていたのだろう。

 にっこりと微笑みかけられる。

 改めて、と美女は仕切りなおすと私の頭を撫でる。

「はじめまして。わたくしはナディン・ジルナレッド・ロウニアよ。長いから、ジルナと呼んでちょうだいね」

「はじめまして、ジルナ様。大魔女の娘でございます」

 頭を撫でてくれていた手が止まる。

 ジルナ様が不思議そうなお顔をされた。

 当然、名乗られたら名乗り返すのが礼儀だろう。


「あの、申しわけありません。魔女の定義で名前はその、名乗れないのです。便宜上『エイメ』とでもお呼び下さい」


「古語で娘の意味ね。そのままなのね。そう……じゃあ、こう呼んでもいいかしら? 『フィルナ』では失礼かしら。かわいいから、あなたにぴったりだと思うのだけど」

『フィルナ』とは雫という意味だ。


 泣いているところを見せたからだろうかと少し気恥ずかしかったが、嫌味は感じない。

 迷い無く頷いて見せた。


「え、と、その。恐れ多いです。どうぞお好きなようにお呼び下さいませ」


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