大地主と大魔女の娘


「さっそく可愛い売り子さんをお買い上げするとしよう」

 腕を掴まれ、引き寄せられる。

 椅子から転げ落ちる手前、またもや抱え上げられていた。

「嫌です」

「ん、かわいい」

「スレン!!」

 助けて、と叫ぼうとして声が出なかった。

 恐怖もあったが、誰に助けを求めようというのかと思ったからだ。


 誰に?

 そう思ったから耐えるべく身を固くした。

「ぐっ」

「スレン。何ならここで完全に勝敗をつけるか?」


 驚くほどの素早さで、地主様はスレン様のわき腹に拳を当て込んでいた。

 スレン様の腕がゆるんだその隙に、すかさず足払いまでお見舞いし、あっさり私をまた抱きかかえた。

 そうして密着してしまうと、私もまた同じように繰り返してしまう。

『まだどこか、痛いのですか?』

 地主様は小さく「いいや」と答えるだけで、やはり認めようとはなさらなかった。


 どうしてこの方は痛みを認めないのだろう。

 やはり、人前では弱みを晒さないと決めておられるのかもしれない。


「え、フルル? そう尋ねる相手を間違っていないかい?」

 スレン様がこちらに両手を広げながら言う。

 それに対して地主様が背を向けて、私を庇うようにして無視した。


「カルヴィナ。これで解っただろう? このおかみの所で奉公することは許可できない」

「だって、働かないといけません。いいえ、ここで働きたいのです」

「許可できない。聞き分けなさい」

「え~? 何で~ぇ? 横暴だな、地主様はさ」

 そうだそうだ。横暴だ。こっそり頷いてみた。

 スレン様もたまには良い事を言う。

 というよりも今、初めて良い事を言った。

「スレン。オマエは黙れ。そして何故ここにいる」

「え。フルルがいるから」

 地主様はまた私を椅子に落ち着けると、無言でスレン様の胸倉に掴みかかる。


 その度におかみさんが「うちの店で暴れるな!」と取り成してくれる。

 店番しながら、戸口で覗いているおじさんは「若いっていいなあ」と楽しそうに繰り返す。

 ルボルグ君はむすっと押し黙っている。

 しかし手元には、先程打ち鳴らした鍋と棒を持ったままだ。


 そんなやり取りの繰り返しだ。
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