大地主と大魔女の娘

大魔女の娘を迎える人々



「何だって? あろう事かロウニア家の若様かい!」

 地主様がお名前を告げた途端、おかみさんの表情が見る間に険しくなった。青ざめたと言ってもいい。

 なんて事だ。


 大地主様の影響はやはりとても大きい。

 彼の前に私ごときの意見など、吹かれて飛んでしまったようだ。


「ああ。世話をかけたな。これはもうじき公の場に出さねばならない娘だ。色々と礼儀作法なども学んでもらわねばならない、見習い中の娘だ。俺の不手際で逃げ出されてしまったが、好きにさせておく気は無い。……要らぬ騒ぎの元になるのは目に見えているからな」

 騒ぎの元。

 テーブルを挟んで目の前に座る地主様は、気のせいか少しためらいながら言われた。

 言葉を慎重に選んでいるように感じる。

 何だかそれすらも居たたまれなくて頭を下げた。

 そんな様子の私を気使うように、おかみさんの手がショール越しに頭のてっぺんに置かれた。

 温かい。


「まあ、同感だねと言うしかないね。確かにこのお嬢ちゃんは目立つよ」

「母ちゃん! そんな言い方って」

「お黙り、ルボルグ。母ちゃんは地主様とオトナの話をしているんだ。子供が口を挟んでいい事じゃ無いよ。ロウニアの若様よ、知らぬ事とはいえ度重なる無礼をお許しくださいますよう」


 おかみさんはぴしゃりと言い放つと、ものすごく丁寧に頭を下げた。

 地主様はそれを苦いお顔で見守り「構わない」と軽く手で制される。


「無礼ついでに地主様。お嬢ちゃんと最後に二人きりで話をさせてもらえないかね? なあに。余計な事を吹き込んだりなんてしないよ。ただ、女同士で話がしたいだけだ。いいかい?」

「ああ。許可する。ただし半刻以内だ。早く、館に戻らねばならん」

「心配には及ばないよ、旦那っと、地主様」



 地主様とおかみさんが話している間、ルボルグ君がずっと手を繋いでくれていた。


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