「…そろそろ、帰ろっか」




暫しの沈黙の後、

貴史の、はっきり しているのに棘のない、あたたかな低音の声が、

和の耳に届いた。






「帰るって、家に?」




「他に どこに帰んの 笑」




てっきり何処かに行ってしまうと思っていたから、

貴史の口から普通に″帰る″という言葉が出て来て、

和は拍子 抜け、した。






「…うん、帰ろっ」




ほっ として笑顔で そう言うと、貴史も おかしそうに、笑った。






「…遅くなっちゃったし、送るよ」




「…ありがとう。




……ん?


お、送る って…、

まさか私の家?」




和が驚いて聞き返すと、貴史は また楽しそうに、笑った。






「だからー、

他に どこが あんの!笑」




いつもの表情で そう笑う貴史を見て、

和も自然とテンションが上がった。






「そ、そうだよね…!笑


…あ、

送ってくれて、ありがとう」




「どー致しまして。


その代わり ちゃんと案内してねー笑」






どうせなら、貴史が何処かに行ってしまわないように、

このまま連れ去ってしまいたかった。


和は なかなか家に着かないよう、

こっそり遠回りをして帰ろうと、思った。





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