「………その お願いは……」




あなたは何かを言い掛けて、止まった。


それから また空気を入れ替えるように、

短く息を吸い込むと、恐らく さっき言い掛けた事とは別の話を、し始めた。






「…前にも言ったけど、

俺は自殺も自傷も、嫌い。




もちろん他殺も嫌いだし、戦争も いじめも、嫌だけど…

生きられるのに、″死にたい″って言う奴が、嫌い。




だから あんたには、生きてて欲しい。


…その気持ちは、変わってないよ」




何かを考えながら ゆっくり そう話す あなたに、私は黙って頷いた。




あなたは気紛れ だけれど、

自分の信念を簡単に曲げる人じゃない って知っていたから、

それは嘘でも何でもなく、真実だろう。






「だけど あんたに言われて、気付いた。


幸せの形は人それぞれだ って、分かってるつもり だったけど…

…あんたは、″それ″が幸せ なんだね」




「………」




私は更に、黙って頷いた。


″それ″が幸せだと言えば、

この前も私を見捨てられなくて迷った あなたなら きっと……。








「あんたには、

″ずっと側に居る″って約束も、

お願いされた事も、何1つ守れなかったから…、

最後の1個くらいは、聞いてあげたい って思ってた。


…でも まさか そんな事を お願いされる なんて、ね…笑」




悲しそうに笑って、あなたが言った。


迷って、困っている あなたの表情に、

一瞬 申し訳ない って気持ちが頭を掠めるけれど…。


でも、

あなたが消える事を迷ってくれてるなら……。



私は…

……引かない。


絶対に。






「…連れてって、くれるの…?」




駄目押しで そう訊くと、あなたは迷って迷って…


最終的に、

ゆっくり と、首を振った。






「あんたの お願いを聞くのは…無理」




「……どうして…


″最後″の、お願いなのに……?」





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