花
あれから、
蓮は ちょくちょく和と凛が お弁当を食べている中庭に やって来ては、
何だかんだと喋って行くように なった。
和も凛も その度に会話を中断させられたが、
なぜか嫌な気分は しなかったので、
3人で他愛も無い話をしては、笑い合った。
お陰で、貴史に関する話題は お昼休みに出来なくなり、
メールで訊く気分にも なれなかったから、
あれ以来、凛とは貴史の話題で険悪になる事は、なかった。
話せなくて寂しい気持ちも あったが、
3人で過ごす時間が和にとって、いつの間にか貴重な時間へと変わって行った。
「藤崎ちゃーん」
そう言って近付いて来ては、和を見つけて にこにこ笑う。
「…先輩」
どんなに小さい声でも和が呼ぶと、
いつも必ず″なぁにー?″と嬉しそうに、答えた。
よっぽど誰かに話し掛けられるのが嬉しいのか何なのか分からなかったが、
和は そんな蓮を見て、少なからず癒されていた。
そして底抜けに明るく、和を いつも笑わせよう とする蓮と一緒に居る時間は、
貴史の事を考えなくて済む、唯一の時間にも なっていた。
同じクラスだったから、貴史とは毎日 会わなくては いけなかったが、
あれから和は意識して、貴史を目で追う事を やめた。
元々 自分から話し掛けていた訳でも なかったが、
話し掛ける事も、やめた。
何をする訳でもなく、教室で一人ぼんやり している和にとって、
中庭で過ごす その時間は、
一日の中で一番の楽しみ、だった。