いきなり掛けられた声に、

和は心臓が止まる程、吃驚した。


その声は特徴的で、振り向かなくても分かったが、

ゆっくり と 振り返る。






「宗谷くん…」




そこには、

とっくに授業は始まった と いうのに貴史が立っていて、

今にも飛び降りそうな体勢の和を、静かに見ていた。


…そして。






「………俺、そーゆーの、嫌い」




和を見たまま、抑揚のない声で貴史が言った。






「…え…?」




「自殺も、自傷も。


そういう事する奴も、嫌い」






「………………」




″嫌い″なんて言われたら、只でさえ良い気分は しないのに、

他でも ない貴史に言われた事がショックで、

和は しばらく言葉も忘れて、立ち尽くしていた。


…涙が、出そうだった。


涙を こらえて、

その場に何とか踏み止まった和に、

貴史は悲しそうな顔で笑って、言った。






「…俺に、あんたの事

嫌いに させないでよ…」




「…え?」




もう一度 聞きたいと思ったのか、

思わず聞き返す。


しかし貴史は、


「…もう 言わない 笑」


と言って、笑った。




…綺麗な笑顔だった。


いつも貴史が笑う度に、和は見惚れて いたのだが、

今回は涙が、流れた。




…そんな風に笑うなんて、

反則だ、と思った。


…そんな事 言われたら、勘違い しちゃうじゃん、とも。


…そんな風に言われたら…側に、居たくなってしまう…。




涙が止まらなかった。


どうしようも なく、貴史が好きなのだ と、知った。


それが ただ、苦しかった。





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