花
和に、
もう一度 貴史と話そう、という気は、なかった。
ただ、
病院という同じ敷地内に居る、という実感だけで、よかった。
しかし、
病院の入り口が見える敷地内のベンチに腰掛けて、ぼんやり と していた和に、
貴史は容赦なく、″事実″を突き付けた。
「……………」
…もう嫌だ、と思った。
貴史を好きで居る事が、
苦しくて苦しくて、仕方ない。
ゆっくり、気付かれないように踵を返して、
和は その場を後にした。
…後に しようと、思った。
しかし その途中で呼び止められて、
和は反射的に、止まってしまった。
「…和ちゃんっ」
それは、貴史と一緒に病院から出て来た、凛の声だった。
焦った声は、和に対する罪悪感の表れなのだろうか…?
でも もう何も見たくない、
聞きたくない、と和は思った。
例え聞いたと しても、
二人が仲良さそうに並んで病院から出て来た事実は、
変わらないだろう。
こんなに好きなのに…、
貴史との距離は、何も変わらないまま…なのか。
…溢れそうな涙を堪えて、
和は その声を振り切るように、走り出していた。