孤高の魚




尚子はいつも多忙だ。

昼は化粧品販売の仕事をし、夜はキャバクラで働いている。


キャバクラは、歩太がいなくなってから始めた仕事らしい。


尚子はサラリーマンの彼氏と同棲していて、昼間の仕事だけでも十分やっていけるのに、何故かキャバクラの仕事を選んだ。


「何かと入り用なのよ」
と言って尚子は笑うけれど、それは本当は多分、尚子なりの歩太のいない穴を埋めるための手段だったのかもしれない。

僕は時々、そんな風に思う。


慌ただしい方が、誰かを忘れてしまうには都合がいい。
その上それが、お金になり気晴らしになるなら尚更。

尚子が僕を誘うのもきっと、その気晴らしの内の一つだ。

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