孤高の魚
「尚子さんがそれでいいのなら、いいのよ。尚子さんの中のアユは、尚子さんだけの存在のアユなの。
……おんなじ様に、わたしのアユもね、わたしだけのアユなの。だからね、尚子さんは、わたしと張り合う必要もないし、アユに気を使う必要もないのよ。
現に今、実在するアユは、ここにはいないのだもの」
そう言う野中七海の言葉には、どこか、決意めいたものが感じられる。
尚子に言葉を向けながら、まるで自分自身に言い聞かせている様でもあった。
その証拠に、よそよそしさのあった尚子に対する敬語口調の語尾は消えて、代わりに、いつものサッパリとした彼女の可愛らしい口調に戻っている。
「誰もがね、きっと、誰かのために存在しているのだけど、同時にね、誰のためにも存在していないと、わたし、思うのよ。
……だから、いいの。アユを、尚子さんのいいように解釈してやれば。それで、いいと思うの、わたし」