孤高の魚



尚子の後ろ姿を見送ってから、僕はジーンズのポケットから煙草を取り出して火を点ける。

尚子の妊娠を意識していた訳ではないのだけれど、今の今まで煙草を吸う意識が僕にはさっぱり働かなかった。

それから僕は、階段の一番下に腰を下ろし、キョロキョロと辺りを見回してみる。


コンクリートの道のずっと先にも、道路を挟んだ向かい側の自動販売機の側にも、その脇の駐車場にも、野中七海の姿はない。

……どこまで行ったのだろう。
近くのコンビニまで煙草でも買いに行ったのか。


< 161 / 498 >

この作品をシェア

pagetop