孤高の魚
「わたしね、アユニ」
そうして彼女は、マグカップに視線を落としたまま、小さな口を開いた。
思わず僕は、姿勢を正してイスに座り直し、身構える。
「……多分まだ、整理のつかないことが沢山あるの」
整理のつかないこと……
そう言ってから彼女は、思い出した様にスカートのポケットから煙草を取り出した。
野中七海はよく、淡いオレンジ色のふんわりとしたロングスカートを履いていて、大きなポケットには常に煙草を忍ばせている。
彼女は細い指でそれを一本抜き取り、口にくわえ、火をつけた。
「……わかってるの」
それから彼女の口はそう小さく開いて、閉じる。
煙草の煙も、一緒に吐き出された。
……わかってる?
いったい何を?