孤高の魚


実際僕は、尚子がいくら僕を慕い、僕のために時間を割き、僕に身を捧げてくれたとしても、決して自惚れないようにだけは心掛けている。


………


僕が思うに、尚子はただ、夜という海に飛び込むために、男という浮き輪が欲しいだけなのだ。


そしてその浮き輪は、尚子の気まぐれで色や形を変える。

僕はその沢山ある浮き輪の内の一個でしかないし、彼女を揺るがす波にも、彼女を救う島にも、決してなれない。


第一、それを彼女は僕には望んでいないし、僕も望んではいない。


僕はただ、彼女の体にぴったりと寄り添い、一緒に夜の海を漂う。

……ただ、それだけの存在なのだ。


………


尚子の夜に対する恐怖は、やっぱり普通じゃないと、僕は時々思い知らされる。

僕の姿が見当たらなくなると、血相を変えて探し回り、トイレにまで押しかけて来る事もある。


けれども、僕の胸にぴったりとおでこを付けて眠る姿などは、本当にいじらしい。

まるで子供のようだ、と思う。


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