孤高の魚


ある日、不動産屋とカプセルホテルを数日行き来した僕は、疲労の末に大学に近いバーへとフラリと入った。

そこは、公園通りの一本向こうにある、暗い静かな路地に面した小さなバーで、平日で人通りも少なかったし、うまくいけばビールの一杯にでもありつけると考えたのだ。
僕は当時十八才だったけれど、物静かで落ち着いて見えるためか、大学生とよく間違えられていた。


………


重々しい黒い扉には、シルバーの金属で『COM』の文字が貼り付けてある。

その文字が、ブルーのスポットライトを受けて、キラキラとブルーに輝いていた。



キイ…


……


僕がドアを開けると、

「いらっしゃいませ」

ハッとするほどキチンとした声が、店の奥から響いて来る。


ブルーの間接照明だけで照らされた店内。
白い壁に黒いソファーとカウンター。
壁に飾られた大きなブルーの抽象画。

緩やかなテンポのクラシック。
ブランデーかリキュールの、ほんのり甘くて渋い香り。


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